2015年04月03日

「完璧な夏の日」(上)(下)


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ラヴィ・ティドハー
東京創元社 創元SF文庫 978-4-488-75201-9  税込 各1,008円  2015年2月刊行

1930年代初頭、あるドイツ人科学者が行った実験が世界各地に超人を生み出した。
年を取らず、それぞれが固有の特殊能力を持つ彼らは超人(ユーバーメンシュ)と呼ばれ、折しも勃発した世界大戦で激しい闘いを繰り広げる。
第二次世界大戦の最中、英国情報機関に所属する超人フォッグは占領下のパリに潜入。
任務の遂行中に「完璧な夏の日」と呼ばれる無垢な少女クララに出会う。彼女は超人の生みの親であるフォーマフト博士の娘であり、超人たちすべての運命を左右する存在だった・・・


原題は「THE VIOLENT CENTURY」つまり“暴虐の世紀”。
本作で描かれるのは“スーパーヒーローが実在するもうひとつの現代史”です。
というとすぐさま思い浮かぶのがグラフィックノベルの金字塔「ウォッチメン」。
ヒーローが実在したら世界の歴史はどう変わるのか、また実際のところ平和のためにヒーローに何ができるのか?というテーマを残酷なまでに突き詰めた傑作ですが・・・本書では「ヒーローがいようがいまいが歴史は変わらないし、人類は殺し合いをやめない」というスーパードライな世界観が炸裂!
本作では各国がそれぞれ相当数の超人を抱え込んでいるために、パワーバランスが現実の歴史とさほど変わらず、自然と戦争の経過や結末も同じルートを辿っていくのです。このあたり、リアルに起こっている紛争や悲劇を防ぐことができない(当たり前ですが)フィクションのスーパーヒーローに対する作者の皮肉なまなざしが投影されているような気もします。
さて、本書の最大の魅力はなんといっても多彩な特殊能力を持った超人たちの登場。
主人公格のフォッグは霧を操る能力者。周囲に濃霧を発生させて身を隠したり、固形化させて戦闘に使ったりします。そのバディで、手をかざすだけで物体を分子レベルに分解する超イケメンでゲイのオブリヴィオン。腐女子方面にもアピールするキャラクター造形となっております。
その他にも、氷や炎、稲妻などを操るワンピースで言うところの自然系能力者や、全身からスパイクを生やす・空中から大鎌を取り出す・超高速移動・目くらましなどバラエティも豊富。超硬質化した痰を弾丸のように射出するというバッチイものや(しかも使うのは女性)、特殊能力を一切無効化するというどこかのラノベみたいな能力者も。当然超人同士のバトルシーンは盛り沢山ですが、非常に抑制されたトーンで描かれているためセンスはいいのですがカタルシスはありません・・・
上に挙げたのはヒーロー物によくある能力ばかりですが、特筆すべきなのはヒロインの「完璧な夏の日」ことクララの能力。戦闘にはまったく役立ちませんが、実は超人たちの全てを握っているといっても過言ではない驚異のパワー。物語の根幹に関わる存在です。
半世紀以上に及ぶスケールで描かれる超人たちの闘いと友情の物語。最後には意外な感動が待っています。
表面的なことばかり書きましたがかなり深いお話でもあります。オススメです!
posted by 竹島書店員 at 23:36| Comment(0) | 日記

2015年03月17日

解決まではあと6人 5W1H殺人事件

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「解決まではあと6人 5W1H殺人事件」 岡嶋二人 
 講談社文庫 978-4-06-185713-1  税込637円  1994年7月刊行

タケシマ熱烈おすすめ本『TAKE1(テイクワン)Books』 第一弾!
80年代前半に彗星のごとく登場、「99%の誘拐」「クラインの壺」など数々の傑作を世に送り出したミステリ史に残る最強ユニット・岡嶋二人による、知る人ぞ知る名作です!

「平林貴子」と名乗る謎の女性が、5軒の興信所に持ち込んだ5つの奇妙な依頼・・・
第一章 「WHO?」・・・あるカメラの持ち主は誰?
第二章 「WHERE?」・・・ある喫茶店の場所は?
第三章 「WHY?」・・・ある車の後部シートがなくなった理由は?
第四章 「HOW?」・・・あるテープに隠された情報を取り出す方法は?
第五章 「WHEN?」・・・ある人物が戻るのはいつ?
おたがいの存在を知らない探偵たちがまとめた、単独では意味を成さない調査報告。
しかしその影には、思いもよらない大事件が隠されていた・・・
いったい、何が起きたのか。
最終章「WHAT?」。6人目の“探偵”が真相を解き明かす!

初版本の発表は1985年というからちょうど30年前になるわけですが、時代を感じさせる描写が少なく、文章が簡潔・軽快で読みやすいので古臭さをあまり感じさせません。ただし作中に出てくる若者言葉が、かなり無理してる感があります。当時としてもちょっと現実とずれていたんではないかと。昔はそういう作品が多かったので、そこが逆に時代を感じさせるところではあります。
そんなことはさておいて、おもしろさは保証いたします!
トリッキーな物語設定といい、どんでん返しの果てに訪れる驚愕の真相といい、時代を経てもまったく色褪せないおもしろさです。
この作品を入口に、岡嶋二人の他の作品を網羅するのも良し、ユニット解散後ソロで傑作を連発している井上夢人の作品に手を伸ばすのも良し。充実の読書経験が待っていることでしょう!
posted by 竹島書店員 at 15:34| Comment(0) | 日記

2015年03月10日

アメリカン・スナイパー

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「アメリカン・スナイパー」 クリス・カイル
 早川書房 ハヤカワ文庫NF 978-4-15-050427-4 税込994円  2015年2月刊行

「アメリカン・スナイパー」、略して「アメ砂」!
アメリカの海軍特殊部隊SEALの一員としてイラク戦争に従軍。
160人もの狙撃を成功させ、米軍史上最多記録を打ち立てた凄腕スナイパー“クリス・カイル”。
本書は、味方からは「伝説(ザ・レジェンド)」と称賛され、敵兵からは「悪魔」と恐れられた狙撃手が、自らの生い立ちや戦争や家族について語った自伝です。
クリント・イーストウッドが映画化、2015年1月に公開され賛否両論を巻き起こしたのも記憶に新しいところです。

本書からうかがえるクリスさんの人となりは、いかにもテキサス出身といった感じの陽気で喧嘩っ早い性格。加えて強い愛国心と正義感の持ち主で、父親に「狼から羊を守る番犬のような人間になれ」と教えられて育ちました。
SEALに入隊したクリスさんはスナイパーとして活躍、160人もの敵兵を狙撃。公式なカウントに含まれない狙撃を含めると、実に250人以上を射殺したと言われています。

まるでフィクションのヒーローのようなクリスさん。ページをめくるたび、そんな彼の戦場での華々しい活躍が次々と目に飛び込んでくるのですが・・読み進めるうち、次第にクリスさんの言動に違和感を覚えるようになりました。
勇ましい言葉が並ぶ文章の行間から、狂気がうっすら漂ってくるように思えるのは気のせいでしょうか。
反政府武装勢力、つまり敵兵を「野蛮人」「悪党」と呼び、任務のためなら女性も子供も射殺。
そして「(殺人を)後悔したことは一度もない」「戦争が大好きだ」「悪党を殺すのは楽しい」と取り憑かれたように繰り返すクリスさん。自分自身に必死に言い聞かせるように。
銃を触っていないと血圧や脈拍が異常に上昇し、触ると正常値に戻る。本人も意識しないところで、クリスさんの精神は確実に蝕まれていたのです。
結局PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、やむなく除隊。
生きがいを奪われたクリスさんは荒れますが、徐々に家族との関係を修復し、自身のPTSDを克服するためもあったのでしょうか、帰還兵の支援団体を立ち上げます。その後書かれたのが本書で、たちまちベストセラーとなりました。
そして悲劇が起きます。解説によると、発売から1年後、クリスさんはPTSDを患うとされる帰還兵に射殺されたそうです。皮肉にも、犯人はクリスさんが支援していた帰還兵のひとりだったとのこと。

そんな「アメ砂」をイーストウッド監督はどう映画化したのでしょうか。未見なのでよくわかりませんが、公開されるやいなや本国アメリカでは「戦争賛美」「プロパガンダ」映画と批判が相次ぎ、それに対して保守派が猛反発。大変な話題となりました。先日発表された第87回アカデミー賞では惜しくも受賞を逃したものの、おかげで戦争映画としては「プライベートライアン」を超える大ヒットを記録しているとのこと。
右左どちらの意見も「何人もの人を殺した人間を英雄として描いている」という解釈で一致しているようですが、実際は反戦色の強い内容だそうです。
まあ、そもそも「許されざる者」や「グラン・トリノ」といった「贖罪」をテーマにした傑作を撮ったイーストウッド監督が、いまさら人殺しを美化する映画なんて撮らないだろうと思うので、騒いだ人たちは何をどう受け止めたのか興味があるところです。
posted by 竹島書店員 at 18:59| Comment(0) | 日記