2015年03月10日

アメリカン・スナイパー

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「アメリカン・スナイパー」 クリス・カイル
 早川書房 ハヤカワ文庫NF 978-4-15-050427-4 税込994円  2015年2月刊行

「アメリカン・スナイパー」、略して「アメ砂」!
アメリカの海軍特殊部隊SEALの一員としてイラク戦争に従軍。
160人もの狙撃を成功させ、米軍史上最多記録を打ち立てた凄腕スナイパー“クリス・カイル”。
本書は、味方からは「伝説(ザ・レジェンド)」と称賛され、敵兵からは「悪魔」と恐れられた狙撃手が、自らの生い立ちや戦争や家族について語った自伝です。
クリント・イーストウッドが映画化、2015年1月に公開され賛否両論を巻き起こしたのも記憶に新しいところです。

本書からうかがえるクリスさんの人となりは、いかにもテキサス出身といった感じの陽気で喧嘩っ早い性格。加えて強い愛国心と正義感の持ち主で、父親に「狼から羊を守る番犬のような人間になれ」と教えられて育ちました。
SEALに入隊したクリスさんはスナイパーとして活躍、160人もの敵兵を狙撃。公式なカウントに含まれない狙撃を含めると、実に250人以上を射殺したと言われています。

まるでフィクションのヒーローのようなクリスさん。ページをめくるたび、そんな彼の戦場での華々しい活躍が次々と目に飛び込んでくるのですが・・読み進めるうち、次第にクリスさんの言動に違和感を覚えるようになりました。
勇ましい言葉が並ぶ文章の行間から、狂気がうっすら漂ってくるように思えるのは気のせいでしょうか。
反政府武装勢力、つまり敵兵を「野蛮人」「悪党」と呼び、任務のためなら女性も子供も射殺。
そして「(殺人を)後悔したことは一度もない」「戦争が大好きだ」「悪党を殺すのは楽しい」と取り憑かれたように繰り返すクリスさん。自分自身に必死に言い聞かせるように。
銃を触っていないと血圧や脈拍が異常に上昇し、触ると正常値に戻る。本人も意識しないところで、クリスさんの精神は確実に蝕まれていたのです。
結局PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、やむなく除隊。
生きがいを奪われたクリスさんは荒れますが、徐々に家族との関係を修復し、自身のPTSDを克服するためもあったのでしょうか、帰還兵の支援団体を立ち上げます。その後書かれたのが本書で、たちまちベストセラーとなりました。
そして悲劇が起きます。解説によると、発売から1年後、クリスさんはPTSDを患うとされる帰還兵に射殺されたそうです。皮肉にも、犯人はクリスさんが支援していた帰還兵のひとりだったとのこと。

そんな「アメ砂」をイーストウッド監督はどう映画化したのでしょうか。未見なのでよくわかりませんが、公開されるやいなや本国アメリカでは「戦争賛美」「プロパガンダ」映画と批判が相次ぎ、それに対して保守派が猛反発。大変な話題となりました。先日発表された第87回アカデミー賞では惜しくも受賞を逃したものの、おかげで戦争映画としては「プライベートライアン」を超える大ヒットを記録しているとのこと。
右左どちらの意見も「何人もの人を殺した人間を英雄として描いている」という解釈で一致しているようですが、実際は反戦色の強い内容だそうです。
まあ、そもそも「許されざる者」や「グラン・トリノ」といった「贖罪」をテーマにした傑作を撮ったイーストウッド監督が、いまさら人殺しを美化する映画なんて撮らないだろうと思うので、騒いだ人たちは何をどう受け止めたのか興味があるところです。
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posted by 竹島書店員 at 18:59| Comment(0) | 日記
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