2015年03月09日

World 4u 江尻立真

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十条店店長のおすすめコミック

「World 4u_」@ 江尻立真 集英社 ジャンプコミック

「P2!」「パパのいうことを聞きなさい!」「おじゃる丸」などの作品を発表してきた著者による、現代日本を舞台とした都市伝説ホラー。
オリジナル連載作品としては「P2」に続きこれが二作目となる。
王道的な学園卓球漫画であった前作に対し、一話完結形式の都市伝説を語り手の少年が紹介していくという、かなり毛色の異なる作品となっている。

さて「4U」ですが
毎話最初と最後を語り手の少年が締めていくのですが、定番のセリフまわし「みなさん●●」に始まり「当HPの名はー」で締まる様式美が、読むほどに馴染んできます。形式を理解するにつれ「4U」世界にずるずる引き込まれていく感覚といいますか、そういう不思議な読み味があります。

「少年のパート(あいさつ)」〜「都市伝説パート」〜「少年のパート(結論的なもの)」という流れですね。

4Uの魅力は、「本筋である都市伝説パートがなかなかよくできている」というのがまずあります。
時にホラーかつハードな、時に救いのない、時に「あれ?ギャグだった?」みたいな話が展開され、話は二転三転しつつオチへと向かっていく。ラストも一工夫されており、都市伝説を知ってる人はなおさら「こうなるんでしょ」と思わせておいて、そこを裏切ってくるという構成。
短編として、読み物として面白いと思います。ちゃんとシナリオを練っているのが感じられます。

それと、全体を支えるホラー調の演出。これがピリリと利いてます。自分はここを推したい。
異形の存在(のようなもの)が種々挟み込まれますが、これがなかなかサイコでシュールなんですね。
ホラー映画ファンでもある(らしい)著者の本領が垣間見える瞬間で、ハッとさせられます。「ドカーン」と来るのではなく、さりげなく「あれ・・なんか変じゃね・・?」と気づかせる「静」の演出。ドカーン系もたまにありますけど(笑)
この演出は、ジャンプ+連載の方にも受け継がれており、なかなか良いものがいくつかありますので興味ある方はぜひ覗いてみてはいかがでしょうか。ねじれた部屋とか秀逸ですよ。

その一方で、異様にかわいいシーンも多数あり(笑)、最強ジャンプに掲載された下水道の話「ない」や、ジャンプ+の狸の話「ばあ」などは「この路線でもいけるんじゃ?」と思わせられるほどでもあります(笑)
ホラーと言いつつもそれ一辺倒ではなく、ほかの要素も抱える見どころの多い作品ではないかと思います。

・・・という「都市伝説パート」が一つの魅力としてあり、

もう一つに、少年・田島圭吾のキャラクター性があると思います。
案内人とは言いつつも、結局この少年は何物(あるいは「何」)なのか。4Uを作ったのはなぜなのか(ちょっと語られますが)。あるいは、4Uは本当に彼が作ったものなのか。何か秘密があるのではないのかと・・・いろいろ勘ぐりたくなってしまうミステリアスな魅力があり、これが物語を牽引する陰の動力なように感じます。
都市伝説パートが表の魅力だとすると、こちらは裏の魅力。
1話だけ、少年が登場人物として現れる駄菓子屋の回があり、「少年は実在するのか、どうなのか?」のラインを越えてきた回で、かなり異色と言えると思います。プールの話も時系列を感じさせる回になっており、「ちょっと、結局どうなの?」とやきもきします(笑)
次回作があるとすれば田島サイドに踏み込んだ話も読んでみたい気がしますが、その願いは果たされるのかどうか。
・・ここまで書いた時点でジャンプ+最終話まで読みましたが・・なるほど、そうきたか!ネタバレしてしまうのでノーコメントで(笑)

さて今回の単行本は、実は過去の読み切りを集めたものとなっており、実に10年にわたっています。その間に「P2」の連載があり、絵柄やストーリー構成などがめきめきと洗練されていく過程が如実に表れている、著者の成長の生き証人(?)のような単行本となってます。
「あ、これは”パパ聞き”以降かな・・」みたいな目で見ると、また違った楽しみ方も出来るかもしれません(笑)
なお、去年からジャンプ+で連載された新作分(10回で完結しました)については次巻以降のお楽しみとなります。(ジャンプ+で見れますけど)

もうひとつ付け加えますと、話の間に都市伝説の解説文が挟まれており、「小泉八雲ってそうなのか、著者はなかなか博識だなぁ」と思わせられると同時に、知らなくても「へー」と勉強できるので、ちょっとオトクなサービスかと思います(笑)
あと、ビルの看板にスタッフの名前が書きこまれていたり、テレビの中で著者が死んでいたり(笑)と、ところどころさりげなく遊びが入っていたりするので興味のある方は楽しんでみては(笑)。
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posted by 竹島書店員 at 10:48| Comment(0) | コミック

2015年01月30日

ピルグリム

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「ピルグリム」1〜3巻 テリー・ヘイズ
 早川書房 ハヤカワ文庫NV 税込各929円  2014年8月〜9月刊行
978-4-15-041311-8  978-4-15-041312-5  978-4-15-041313-2

かつてアメリカの極秘機関を統率し、10万人におよぶ自国の諜報員を監視してきた“私”は、911の同時多発テロの影響により職を退き、身を隠してひっそりと暮らしていた。しかし、ある殺人事件の捜査協力をきっかけに政府に存在が露見、超極秘ミッションへの協力を要請される。それは、イスラエルのテロリスト”サラセン“が単独で立案した米本土への大規模バイオテロの阻止。失敗すれば、アメリカは死の国となる・・・
新しいコードネーム”ピルグリム“を与えられた”私“は、サラセンの居場所を突き止めるべく少ない手がかりを必死に辿るが、予想される決行日は刻一刻と迫る。状況打開のため、”私”は乾坤一擲の賭けに打って出た!
伝説のエージェントVS史上最悪のテロリスト。闇に生きる男たちの死闘を壮大なスケールで描いた超大作!!
このミステリーがすごい!2014年海外編第4位!

いやー、めちゃくちゃ面白かった!作者のテリー・ヘイズはこれが小説デビュー作とのことですが、なんですかこの完成度は!・・・と思ったら全くの新人ではなく、もともと脚本家として長いキャリアのある人。それどころか!なんと!あの観ないと人生の単位を落とすとまで言われた漢の必修科目映画「マッドマックス2」の脚本を書いた人ですよ!あの大名作のシナリオ書いた人が今度はこんな面白い小説を書くとは!才能って不公平ですね・・・今年の夏、「マッドマックス」新作が公開予定ですが今回はテリーさん、参加していないようです。ちょっと残念です。

この本に関してはもう読んでほしいとしか言えません。これ以上中身をバラすのはもったいないからです。どうやら続編も予定されているようですが、ただでさえ壮大なスケールだった本書を超えるものができるのかちょっと不安・・・でも、楽しみに待ちたいと思います!

posted by 竹島書店員 at 17:50| Comment(0) | 八潮店 文芸書担当のおすすめ

2014年12月20日

その女アレックス

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「その女アレックス」ピエール・ルメートル
 文芸春秋 文春文庫  978-4-16-790196-7 税込918円 2014年9月刊行

買い物の帰り道、突如として拉致され、監禁された女性。身動きもままならない狭い檻に閉じ込められ、食物も与えられず、徐々に衰弱してゆく彼女を不気味に凝視する飢えたネズミの群れ。
死を目前にした彼女を支えるのは、たったひとつの想いだけ。
“わたしにはまだやらなければならないことがある”─彼女の名はアレックス。
“このミス、週刊文春、早川書房、IN☆POCKET 1位全制覇。今年最高の話題作!”(本書帯より)

拉致監禁された女性を救え!「特捜部Q 檻の中の女」を彷彿とさせるシチュエーションではじまる本書。ところが!ここから物語は二転三転、そのたびに世界の見え方がガラッと反転するような展開を見せます!これだけ予想を裏切っていく物語もなかなかないですよ!「こうきたら次はこうなるだろう」っていうサスペンスの定型が巧みにずらされる!その結果どうなるか?まず唖然としますよね。その後より強烈なサスペンスが襲ってくるわけですよ!サスペン過ぎ!
内容についてはこれ以上語れないので、登場人物について少し・・・アレックスは別格として、事件を追う捜査陣がいい!145センチの低身長でハゲというロースペックなルックスながら、すこぶる頭が切れるヴェルーヴェン警部、対照的に巨漢で百官デブの上司ル・グエン、若くて金持ちのイケメン刑事というこち亀の中川巡査みたいなルイ、正反対に貧相で超ドケチなアルマンという凸凹コンビ2組。マンガみたいな4人組ですが、こいつらがまたイイ奴らなんですよ!鬼畜のような所業がこれでもかと描かれる物語のなかで、彼らのアツい正義感と人情が暗くなりがちな雰囲気を救ってくれています。

まあこれは言ってもいいと思うんですが、どうあがいてもラストで泣きます。あがくだけ無駄ですよ・・・といっても巷にあふれ返る激安なお涙頂戴ものと一緒にしちゃいけませんよ!この本で泣くのはなんら恥ではない。むしろ泣けなかったら恥じるべき!!あと、最低2回は読んだほうがいいんじゃないですか?真相がわかってから再読すると、一度読んだ場面がまた違った意味合いで見えてきますよ・・・というか、まず一回読んでください!早く!
posted by 竹島書店員 at 15:20| Comment(0) | 八潮店 文芸書担当のおすすめ