2014年12月01日

生頼範義 緑色の宇宙

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「生頼範義 緑色の宇宙」イラストレーション別冊
玄光社ムック 978-4-7683-0583-6 2,160円 2014年11月刊行

“スターウォーズ、幻魔大戦からゴジラ、信長の野望まで 世界が驚愕した伝説のイラストレーター”(本書帯より)
ここ数年は病気で休筆されているようですが、生頼さんのイラストは日本国民なら一度は目にしたことがあるはずですよ!圧倒的な技術に裏打ちされた、美麗かつ獰猛な生命力に満ち溢れた画風。芸術にも肉食・草食があるとしたら生頼さんは完全に猛獣系ですよ。そんな見るだけで細胞がリフレッシュされる極上イラストが詰め込まれたムックが発売です!これは買いですよ!
生頼さんがブレイクしたのは「帝国の逆襲」のポスターがきっかけだそうですが、今見てもカッコイイですよ。確かに映画自体もSWサーガの中では最高傑作でしたが生頼さんのポスターの貢献度はかなり大きかったと思います。幻魔大戦もジュラシックパークもゴジラも、数多あるSFや冒険小説も、生頼さんのイラストで魅力を四割増しくらいされていましたから。逆に表紙は迫力あるのに中身が・・・という本末転倒パターンもありましたが、そこはそれ!
そんな個人的に大好きな生頼さんなのですが・・・お名前をおうらい・のりよしと読むことを知ったのは結構最近です。それまでは何の疑問もなく“なまより”と読んでいました。スイマセン!
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月の部屋で会いましょう

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「月の部屋で会いましょう」レイ・ヴクサヴィッチ
東京創元社 978-4-488-01453-7 税込2,052円

「モリーに宇宙服が出はじめたのは春だった。」
奇天烈な一文ではじまる「僕らが天王星に着くころ」を筆頭に、とんでもなくシュールな世界がたくさん詰まった短編集。すっとんきょうなシチュエーションのなかで語られるのは、ディスコミュニケーションから生まれる孤独や切なさ、そして恐怖。とぼけたユーモアの味わいも絶妙で、一回読んだらトリコになる魅力にあふれています。
収録作はどれも印象深いのですが、その中でも心に残った作品をいくつか。
まず、先ほども名前を挙げた「僕らが天王星に着くころ」。シュールさという点では本書随一。肌から宇宙服が生えてきて体全体を覆い、最後には宇宙のかなたに飛び去ってしまう奇病が蔓延して・・・。って奇病過ぎでしょ!そんな中、自分よりも宇宙服化が進行した彼女となんとか一緒に旅立とうとする男性が悪戦苦闘するお話ですが、早々に諦めた彼女との会話が全く噛み合ってなくておかしい。シラフで考えたとは思えない内容でありながら、ラストはじわっと切ないという・・・本書全体に共通する要素がもっとも色濃く出た一編と言えましょう。
もうすぐ彗星が落っこちてきて人類滅亡という「彗星なし(ノー・コメット)」は、“量子力学によれば、観測者が見たときに事象は確定する”、だから見なきゃいいんだと全員で紙袋をかぶる家族のお話。それで済むなら「アルマゲドン」も「地上最後の刑事」もあんなに苦労しないよという話ですが・・・頭から食料品の袋をかぶった珍妙な姿でいがみ合う夫婦と呑気な娘が笑えます。最後に出てくる猫は、やっぱり・・・?
奇妙なラブストーリーやスラップスティクなコメディばかりではなく、鳥肌がたつような怖い作品も少なくありません。
ディスコミュニケーションの象徴でしょうか、やはり“紙袋をかぶった人”が出てくる「冷蔵庫の中」。家に帰ってみると、暗い部屋の中、紙袋をかぶった彼女がじっとソファに座っていて・・・とこちらは出だしからかなり不気味。ラスト一行、強烈な不安感が襲ってきます。他にも、一見仲のいいグループに潜む悪意をあぶりだす「ふり」、自分をTVドラマの俳優だと思いこんでいる男の恐ろしい末路「シーズン最終回」など・・・
こうして見ると、レイ・ヴクサヴィッチさんの作品のテーマがなんとなくわかるような気がします。人間は完全には理解し合えない、というのは大前提として、それでも他人を尊重し、理解しようと努力することが大事だと。レイさんの作品では、そういう登場人物には大体なんらかの救いが与えられています。逆に自分や他人に対する思い込みを変えようとしない登場人物には(どんなに無害そうな人であっても)残酷な結末が・・・
これが本邦初の短編集とのことですが、これからもっと読む機会が増えることを願ってやみません。
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2014年11月20日

全滅領域 サザーン・リーチ@

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「全滅領域 サザーン・リーチ@」ジェフ・ヴァンダミア
早川書房 ハヤカワ文庫NV 978-4-15-041320-0税込886円 2014年10月刊行

見えない境界に囲まれ、異様な生態系と謎の建造物が存在する領域「エリアX」。政府の「監視機構」は、その謎を解明するため何度も調査隊を送り込んできた。しかし、無事に戻ったものはほとんどいなかった。そして今また、4人の女性からなる調査隊が「エリアX」に足を踏み入れる。その中の一人、「生物学者」には他のメンバーも知らないある目的があった・・・パラマウント映画化決定。

タイトルの匂うようなB級感に伸ばしかけた手をいったん引っこめましたが、“解説・柳下毅一郎”に惹かれて手にとりました。イヤー、読んでよかった!本格SFのようでもあり、幻想文学のようでもある、ひとくちにくくれない物語。巻末の解説にあるとおり、ストルガツキー兄弟/タルコフスキーの「ストーカー」を思わせる(というか明らかに意識している)お話です。人知を超えた力が潜む謎の土地という舞台設定や、名前が明かされず職業で呼ばれる登場人物など、共通点多し。異常な生物相の存在や地下に埋め込まれた建造物が出てくるところは、南海の孤島にシロクマがいたり地面に埋まった謎のハッチが登場するTVドラマ「LOST」も影響してるような・・・あと、終盤の展開には、諸星大二郎の某名作が頭に浮かびました。

とにかくすべてが謎。本書の内容はすべて「生物学者」の日誌上の記述という体裁なので、彼女にとって自明なことは説明されません。ですので、どこの国のいつの話かも不明。彼女自身、多くの情報を隠蔽されたうえ、強力な催眠暗示をかけられている状態で、なおかつ個人的な秘密も抱えているという、いわゆる「信頼できない語り手」。また、エリアXを管理しているらしい「監視機構」もとことん謎めいています。シリーズタイトルの「サザーン・リーチ(南の領域)」はこの正体不明の機関の別名らしいのですが、どこに対しての「南」なんでしょうか。調査隊を送り込む目的も、単なる調査ではなさそうです。そもそも監視とは、何の監視を意味するのでしょうか?いやあ、ゾクゾクしますねえ。

物語の進行と合わせるように、徐々に変容していく「生物学者」の心の動きも読みどころです。なぜ、彼女が語り部なのか。その辺にも物語を読み解く手がかりがあるような気がします。
三部作の第一部ということで、物語上の謎は深まる一方でほとんど解かれません。いくつか説明はあるのですが、すべては語り部である「生物学者」の解釈に過ぎないからです。その真実が曖昧な感じもすごくよかったのですが、11月刊行の第二部では、「監視機構」視点の物語が展開するとのこと。物語の全体像が明らかになりそうな気がします。

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