2014年11月20日

カウントダウン・シティ

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「カウントダウン・シティ」ベン・H・ウィンタース
早川書房 978-4-15-001889-4税込1,728円 2014年11月刊行

小惑星の衝突による人類滅亡が迫るなか、真摯に職務を遂行する若き刑事の姿を描いた傑作「地上最後の刑事」、三部作の第二部がついに出ましたよ!
人類滅亡まであと残り七十七日。「宇宙戦艦ヤマト」のナレーションみたいですが本作にはヤマトもブルース・ウィリスも登場しませんので、小惑星を破壊するとか軌道をずらすなんていうダイナミックな展開にはなりません。それどころか、破壊すると無数の破片がより甚大な被害をもたらすというので、小惑星への核攻撃ミッションを実行しようとしたパキスタンをアメリカ・欧州諸国が爆撃して阻止するという・・・皮肉というか、なんというか。前作ではまだ見られた日常の風景も大半が失われ、社会は崩壊の一途を辿っています。
食糧事情は悪化し、配給制に。電気水道もいつ停まるかわからず、ネットやTVはもはや過去の遺物と化しています。警察も機能していないため白昼堂々略奪や殺人が横行。「死ぬまでにやりたいこと」をやるために家族・知人を捨てて出奔する人が続出。直撃予測地点であるインドネシアとその近隣から船で逃げ出してきた難民たちが次々と海岸に押し寄せ、警備隊と小競り合いに・・・等々、凄まじいことになっているのですが、描写がリアルで淡々としているだけに一層恐ろしく感じられます。
そんな末期的状況のなか、主人公の元刑事・パレスは昔なじみの女性から出て行った夫の捜索を依頼されます。どうせあと2か月しか生きられないんだから、本人の好きにさせとけばいいのに!と凡人なら思うところですが真面目なパレス君は引き受けます。そして前作同様、地道な聞き込みを開始するのですが、手がかりは少ないわ、世の中は狂ってきてるわで捜索は困難を極めます。「でも、やるんだよ!(コピーライトマーク根本敬)」と歯を食いしばってがんばるパレス君が辿り着いた衝撃の事実とは・・・

本書では、前作にも登場した実の妹・ニコが物語に大きくかかわってきます。苛酷な幼少時代をともに過ごし、守ってやると誓った最愛の妹は、今や反政府勢力と活動中。この集団、ニューハンプシャー大学を根城にしたヒッピーみたいな連中で、政府による陰謀論を唱え、武装決起を目論んでいます。政府は小惑星を破壊できる方法があるのに、過剰な人口を減らすためわざと衝突させる気でいるというのがその主張。いくらなんでもそりゃないんでは・・と言いたくなりますが、ニコは完全に信じ込んでいて、連れて帰ろうとするパレスを拒絶します。
運命を受け入れ、その上で自分にできることをやり抜こうとするパレスと、運命に抗い、戦うことを選んだニコ。
どちらが正しいわけでも間違っているわけでもないんですが、ただし・・ニコがあまりにもバ・・いや、純真そうに見えるので悲劇の予感がビンビンします。すれ違う兄妹の関係に決着はつくのでしょうか?第三部は妹萌えの人なら必読の内容になるかもしれませんよ!

さて、第三部の舞台は遂に衝突の1週間前(!)。ホントにどうなっちゃうんでしょうか?最後の瞬間は描かれるのでしょうか?パレスはその時何を想うのか。一刻も早く邦訳をお願いします・・・!!
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posted by 竹島書店員 at 18:54| Comment(0) | 八潮店 文芸書担当のおすすめ

2014年11月10日

ゴースト・スナイパー

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「ゴースト・スナイパー」ジェフリー・ディーヴァー
文芸春秋 978-4-16-390156-5 税込2,592円 2014年10月刊行

バハマに滞在中の著名な反米活動家モレノが殺害された。彼の命を奪ったのは、2,000メートルの長距離から放たれた1発の弾丸。米国政府の諜報機関による違法な暗殺と判断した検事補ローレルは、指令を出したNIOSの長官・メツガーと実行犯のスナイパーを捕えることを決意。強大な敵に対抗するため、四肢麻痺の科学捜査コンサルタント、リンカーン・ライムと刑事アメリア・サックスに捜査協力を要請する。しかしバハマは遠く、非協力的な態度を取る現地警察からは証拠物件が送られてこない。遅々として進まない捜査に業を煮やしたライムは、現場検証のため、みずから現地に飛ぶ。しかしその間にも隠蔽工作は着々と進み、NYに残って捜査を続けるサックス、そしてバハマのライムにも危険が迫る・・・!
リンカーン・ライムシリーズ第10作。

久々のライムシリーズ新刊ですが、前作「バーニング・ワイヤー」で宿敵との決着がついたせいもあってか、今回は事件のスケールが大きいわりにツイストはおとなしめで、シリーズ中では小粒な作品という印象です。とはいえおもしろさのレベルはいささかも下がってません。分厚い本ですがあっという間に読み終えてしまします。
テロとの戦いにおいて、先制攻撃はどこまで許されるのか。現実とリンクした重たいテーマを扱いながら、ページを繰る手を休ませない一級のエンターテイメントでもある・・・並みの作家ではこうはいきますまい。

さきほどツイストがおとなしめと書きましたが、読者を騙すテクニックにはますます磨きがかかっています。
ディーヴァーといえば、二転三転どころか五転、六転のドンデン返し。読むほうも当然身構えているわけで、ハードルの高さは新作が出るたびに上がっているはずなんですが、本書でも目くらまし、うっちゃり、ミスディレクションの限りを尽し、見事に騙してくれます。

おなじみのライムファミリーも健在で、なかでも今回、ルーキーことロナルド・プラスキーが素晴らしい働きを見せます。下手するとサックスを上回るレベル。殺されかけたせいで一時は警察を辞めようとしたプラスキーが、ここまで成長するとは・・・・シリーズをずっと読んできた人ならグッとくるのではないでしょうか。

解説によれば、アメリカではすでに11作目が刊行されているとのこと。タイトルは・・「skin collector」。
こ・・これは、どう見ても1作目「ボーン・コレクター」にひっかけたタイトルですよね?11作目ということでシリーズの仕切り直しなのかもしれません。だとしたら、大変気合の入った内容であることが予想されます。一刻も早く読みたいので文芸春秋様、可及的速やかに邦訳出してください!よろしくお願いします!

「ボーン・コレクター」で思い出しましたが、1作目以降映像化のニュースがない本シリーズ。叙述トリックを多用するそのスタイルが原因なのか、それとも映画版ボンコレの評価がイマイチだからか・・・上手く撮れば、面白くなると思うんですけど・・・また映画化してほしい・・・というか、スカーレット・ヨハンセンにアメリア・サックスを演ってほしいだけですが!ライム役はロバート・ダウニー・Jrでどうでしょうか?
posted by 竹島書店員 at 21:39| Comment(0) | 八潮店 文芸書担当のおすすめ

さよなら神様

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「さよなら神様」 麻耶雄嵩 
文芸春秋 978-4-16-390104-6 税込1,620円

前作「神様ゲーム」は、児童向けミステリ叢書「講談社ミステリーランド」の一冊として発売されたのですが、他に類を見ないほどの後味の悪さで話題になりました。
児童向けという縛りを逆に利用して、純真な子供たちにどれだけトラウマを与えられるかに挑戦したかのような内容だったのです。
「児童書」の定義をいかに拡大解釈しても余裕ではみ出るインモラルな結末は、何も知らずに読んだ無垢な少年少女の心に深刻な精神汚染を引き起こしたことに違いありません。
そんな教科書に採用してはいけない作品NO.1の9年ぶりの続編が本書「さよなら神様」です。
インパクトはだいぶ落ちましたが、その分ゆっくり効くボディブローのような作品に仕上がっています。

前作に引き続き、あの鈴木太郎が登場します。鈴木君は見た目は小学生ですが、神様です。神様というのはあだ名でもなんでもなく、いわゆる唯一神、森羅万象をクリエイトした本物の神です。神様が退屈しのぎで小学校に通っているというこの設定、普通なら「ブルース・オールマイティ」みたいなコメディになりそうですが、本書には心温まる笑いなどカケラも存在しません。この鈴木君、人間を虫けら程度にも思っていないからです。だけでなく、人の悩み苦しむさまを見るのが最高のエンタメだと思っているようなのです。不気味なことに、前作では地味で目立たない子供だったはずが、今回は女子にモテモテの別人に変身していますので、やはり人外・・?イケメンになったせいかどうか、ムカつき度も格段にアップしています。神様というより、悪魔に近い存在にしか思えませんが、どちらにしろ人知を超えたアビリティの持ち主なのは確実。この作品世界では、鈴木君の言うことが絶対の真実というルールが存在しているからです。そしてこのルールが、本書のミステリとしての核になっています。

本書は六話からなる連作集ですが、少年探偵団に所属する主人公・桑畑淳が、身近で起きた殺人事件の犯人の名前を転校生の鈴木君に教えてもらうところから毎回スタート。
毎話1行目から「犯人は○○だよ」と涼しげに言い放つ鈴木君。ただし犯行手段、動機などの説明は一切してくれません。なぜわかるかと聞いても「神だから」の一言。最初に犯人がわかっているミステリを倒叙ミステリといいますが、普通はその犯行の様子が地の文で描写されます。つまりその人物が犯人であることは間違いない事実として読者に約束されます。しかし本書の場合、鈴木君が名指しした人物が本当に犯人かどうかは登場人物にも読者にも確信がもてないままです。まず鈴木君=神様の言うことを信じるべきか否か。少年探偵団の面々は、疑いながらも結局「鈴木君は真実を言う」ことを大前提に、「どうしたらその人が犯人として成立するか」を推理しなければならないはめに・・・
たいていのミステリでは、探偵役が説明する真相はひとつだけで、登場人物たちもそれを疑いなく受け入れますが、その真相とは本来存在しているはずの無数の可能性を切り捨てることによって成立しているに過ぎません。
それは神様が犯人を名指しして「ぼくが犯人だと言ったらその人が犯人」と言うのと実は大差ないんではないか。
そんな意味で、鈴木君はまさに究極の探偵役であり、かつ探偵という存在の究極のカリカチュアなのかもしれません。

前作よりインパクトは落ちると書きましたが、あのラストの黒いハートマークはさすがに・・悪寒が走りました。
posted by 竹島書店員 at 21:37| Comment(0) | 八潮店 文芸書担当のおすすめ